2020年 東京オリンピック・パラリンピック

鈴木大地スポーツ庁長官インタビュー

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2020年7月24日に始まる東京2020オリンピック、8月25日から始まるパラリンピック。正式名称は「第32回オリンピック競技大会」「第16回パラリンピック競技大会」で東京都を核としたエリアで開催されます。1964年から56年ぶりの開催に向けて、2018年8月5日、鈴木スポーツ庁長官に意気込みや課題、展望などについてお話を伺いました。

鈴木 大地(Suzuki Daichi )★ profile
千葉県出身。1988年ソウル五輪で競泳男子100m背泳ぎにおいて金メダル獲得。順天堂大学卒業後、アメリカコロラド大学ボルダー校客員研究員に。2007年順天堂大学にて医学博士号を取得。2013年に順天堂大学教授就任、同年日本水泳連盟会長に就任。2015年10月スポーツ庁初代長官に就任、現在に至る。
Twitter:@daichi55


Q.日本では海外に比べてパラリンピックの認知度が低いのではないかと思いますが、東京2020に向けてどのように取り組んでいらっしゃいますか。(上智大学 神野帆夏・佐藤慶実)

A.認知度そのものは徐々に高まっています。ただ、見に行くとか見に行ったことがあるといったような実際の行動に、なかなか結びついていないのです。また障がい者の皆さんにもっともっとスポーツをやってもらいたいですね。実際にスポーツをしようと思っていただくための施策も必要でしょう。普及活動も含めて、課題は多いと私たちは思っています。今、全国に19万箇所ほどのスポーツ施設がありますが、その内で障がい者専用の施設は139箇所です。日本の全人口に占める障がい者の割合は6〜7%なのに対し、専用のスポーツ施設は0.067%しかありません。改善していかなくてはならないと思います。

Q.長官が様々な競技を視察に行かれる中で、最も大切にされていることや意識されていることは何ですか。(上智大学 神野帆夏・佐藤慶実)

A.その競技が普及・発展するためにはどうしたらいいか、という視点で視察に行っています。改善点はあるのか、何が必要なのかを念頭に置きながら質問をしたりお話を聞いたりする中で、だんだん競技のことが解ってきます。視察でいろんな競技の現場を見るのは理解を深めるために必要なこと。その利点を活かしながら普及・発展に力を注いでいます。

Q.SNSでも発信されていますが、どんな狙いがあるのでしょうか。(上智大学 神野帆夏・佐藤慶実)

A.いろんな出来事に関し、考え方を多くの人に対してダイレクトに発信できるのがSNSの特徴です。情報戦略としてSNSは重要になってきたと思いますね。

Q.若い世代に対して、東京2020ではどんな関わり方を望まれますか。(上智大学 神野帆夏・佐藤慶実)

A.ある意味では若い世代へ刺激を与えるための大会でもあると考えています。主体的にできることからやっていただきたいと思います。私たちとしてはどんどんインスパイアして、若い世代の皆さんの、次の日本、世界を担っていくきっかけにしてもらいたいと思っているのですよ。皆さん自身がこれから何をしていきたいのか、いろんな主役になった気持ちで考えてほしいと思います。東京2020ではボランティアだけで8〜9万人も必要なので、通訳だったり運営サポート、テクノロジーやメディアサポートなど、様々な形で参加していただきたいですね。

Q.ゴールデン・スポーツイヤーズと名付けられた2019年から2021年の3年間、日本で様々な国際大会が開催されますが、どのようにすれば国民を巻き込んでいけるとお考えですか。(上智大学 神野帆夏・佐藤慶実)

A.スポーツにいろんな刺激を受けて「よし、自分もやってみよう」と思える社会に変えていけたらいいなあと思います。スポーツというのは実際にスポーツするだけでなく、見るとか支えるなどいろんな参加の仕方があります。面白いと思える競技があったら、観戦やボランティアで支えるとか、自分のできる関わり方でスポーツに参加していただけたらうれしいですね。私たちとしては当然、選手の方たちに多くのメダルを獲ってもらうための後方支援をしています。しかしそれだけではなく、日本社会のスポーツ実施率向上を目指しています。そうなるとスポーツビジネスも活気づいて、施設の稼働率や用品などの販売も伸びるでしょう。スポーツによって国全体が活気づくようなゴールデン・スポーツイヤーズになるといいですね。

Q.東京2020までの長官の個人的な目標は何ですか。(上智大学 神野帆夏・佐藤慶実)

A.東京2020でいえば選手の方たちにメダルをたくさん獲ってもらえるためのサポートが大切ですが、私たちの仕事は競技大会だけでなく多岐にわたります。学校体育や運動部活動をどうするかとか、大学スポーツをどう変えていくかなど、それぞれ少しずつ前進させて2020年までに軌道に乗せることが目標ですね。

Q.様々な人々とコミュニケーションを取る中で、相手にどのような印象を与えるように心掛けていらっしゃいますか。(上智大学 神野帆夏・佐藤慶実)

A.世の中には政治や経済などいろんな分野がありますが、やはりスポーツというものは如何なる場合でも明るく前向きなものだと思います。スポーツをする人は礼儀正しく爽やかな印象でなければいけないのではないでしょうか。スポーツっていいな、と明るくポジティブな気持ちを持ってもらえるようにしたいです。

Q.将来的には健常者スポーツ専用施設と障がい者スポーツ専用施設を別々に作るのか、総合型にするのか、どちらが理想だとお考えですか。(上智大学 神野帆夏・佐藤慶実)

A.私たちは『共生社会の実現』という目標を掲げています。いわゆるダイバーシティー・インクルージング。多様性を受け入れて社会の活力とする…いろんな人たちがいて、それぞれが心地良く快適に過ごせる中でお互いに刺激し合って学ぶという社会は素敵でしょう。スポーツ施設も専用ではなく、いろんな人がいるという施設が理想です。

Q.今年の猛暑から考えると東京2020開催時期にも懸念されると思いますが、どのような対策をとっていくのでしょうか。(東京大学 内野澤安紀)

A.暑さ対策については担当大臣、東京都、組織委員会で考えていますが、私たちも選手がベストパフォーマンスを出す上でどんな施策が必要なのか考えなくてはなりません。体温の上昇を抑える画期的な食物の開発とかミストの設置など、各メーカーの協力も必要です。各方面からアイデアを提案してほしいとも思います。

医科学、知識をフル活動させて当っていきたいですね。

Q.オリンピック・パラリンピックを東京で開催するに当たり、どのように外国人客を集める工夫をされていますか。また、その方法や工夫に『日本らしさ』や独自性があればお聞かせください。(慶応義塾大学/桐朋音楽大学 柴田奏)

A.観光客誘致について私たちは専門ではありませんが、一つには案内板や看板などにもっと英語表記を増やした方がいいと思います。日本らしさという観点では、日本独自のスポーツとか運動種目が外国人に人気があることに着目しています。柔道、空手、剣道、相撲といった日本の武道などを外国人にもっと知ってもらって、スポーツ目的の外国人を誘致したいと考えており、武道を体験したり視察・見学したりできるような施策を模索しています。東京2020を機に『ビヨンド2020』と題した相撲大会をオリンピックとパラリンピックの間にやろうか、という計画もあります。日本には海外にない独自の文化とかスポーツ文化がありますので、私たちとしてはそれをアピールして誘客したいと考えています。文化のためのオリンピック『文化オリンピヤード』という考え方もあります。要は東京2020が、ただのスポーツ大会ではなく「やっぱり日本っていいね」といわれるようにしたいし、2020年が終ってからも再来してもらえるようなリピート策を考えていきます。

Q.先ほどのお話の中で、若者の主体性に言及されていましたが、私の周りで話題になるのは、ボランティアすることを就職のために利用するということです。スポーツと関係ないところでの概念だと思うのですが、それでいいのでしょうか。ボランティアを求める側と提供する側、両方がウインウインならいいのかなとも思いますが…。(慶応義塾大学/桐朋音楽大学 柴田奏)

A.スポーツと関係ないところだと仰いますが、関係なくもないと思います。ボランティアを実際にするうちに、スポーツの良さを見つけたりネットワークを築いたりできます。それもスポーツのポジティブな一面じゃないですか。スポーツは礼儀正しさや明るさを育むと思います。スポーツを通じた信頼感もあると思います。それもスポーツの力なんじゃないでしょうか。スポーツの良さとか面白さ、感動などに触発されて、何か動くきっかけになるといいですよね。

Q.学校のスポーツで専門的な知識や資格を持つ部活動指導員があまりいないように思うのですが、国としての施策はありますか。(名古屋大学附属高等学校 兼松亜優)

A.部活動指導員を導入する学校とか教育委員会に補助金を出している事業があります。でも普及していくのはこれからでしょうね。東京では外部指導員を導入している学校が出てきました。まず先進モデル事例をたくさん創って、それを皆さんの目標にしてもらう取り組みをしています。なかなか外部指導員といっても想像がつかないという声もありますので。

Q.東京2020後に経済が冷え込むのではないかと噂されたりしますが、長官は個人的にはどうお考えですか。(名古屋大学附属高等学校 兼松亜優)

A.経済学者じゃないので明言できません。しかし2019年からの3年間、国際スポーツメガイベントが日本で開催されますので、これを機に日本としてスポーツ立国を目指していきます。そこへ焦点を当て世界に誇示できるような体制を考えているところです。様々な施設を造っていますから、2021年後も如何に国民の利用率を上げるかがポイントです。施設を利用して健康を手に入れたり生き甲斐を見つけたり、心の充足を手に入れたりして欲しいのです。それによって、もしかしたら医療費を下げられるかもしれません。投資した施設を国民が上手く利用して、ライフスタイルや精神的なあり様を変えていけるのか…私たちはそういうところまでフォローして見ていかねば、と思います。

Q.スポーツ庁長官になられて、元オリンピック選手だったからこそ役に立ったということはありますか。(金城学院高等学校 西塚早咲)

A.スポーツについての知識があると思われることくらいでしょうか。またオリンピックで金メダルを獲った経歴も評価されて長官に選ばれたのかもしれませんね。スポーツの行政をさせるにはシンボリックで解り易いということもあるのでしょう。ご質問の中で「元オリンピック選手…」と仰いましたが、オリンピック選手になったら生涯にわたってオリンピック選手なんですよ。元、とはいわないんです。金メダリストも元ではなく生涯、金メダリストですよ。

Q.東京2020で世界中から多勢の人が集りますが、文化や習慣の違いから治安に対する環境は整っていますか。(愛知教育大附属中学校 柴田和琳)

A.治安に関しては内閣府、警察庁、税関に関する財務省、入国に関する法務省などが主体的に担当します。いろいろな部門で仕事の役割がありますので専門的なことは関わっておりません。ただ私たちとしては、選手が安全かつ良い環境で不安なく競技ができるように後方から全力でサポートしていきます。

(写真左から)
兼松 亜優 名古屋大学附属高等学校3年生
西塚 早咲 金城学院高等学校3年生
柴田 和琳 愛知教育大学附属名古屋中学校3年生
神野 帆夏 上智大学2年生
柴田 奏 慶應義塾大学/桐朋音楽大学3年生
佐藤 慶実 上智大学2年生
内野澤 安紀 東京大学1年生

スキッフル 鈴木大地長官インタビュー

上智大学 法学部地球環境法学科 2年 佐藤 慶実

今回、スポーツ庁の鈴木長官にインタビューをさせていただき、様々なお話を聞かせていただきました。私たち上智大学のメンバーは、東京オリンピック・パラリンピックを見据えて活動するGo Beyondのメンバーでもあるため、オリンピック・パラリンピック関連の質問にも多く答えていただきました。

お話を伺った中で、スポーツが社会に与える刺激を大切に、来るゴールデンスポーツイヤーズを迎えようとされていたことが印象的でした。スポーツをすること・見ること、そして支えることを通して国民のライフスタイル、精神面、健康面、そして経済効果にも良い影響を及ぼすことを期待していらっしゃいました。私たち若い世代には、特に次の日本を担っていく世代としてどんどん刺激を受け、行動してほしいともおっしゃっていました。私たちは、オリンピック・パラリンピックがスポーツを通した共生社会の実現の一つの機会となることを目標に活動しているので、これからも様々な活動・趣味としてのスポーツ・スポーツ観戦を積極的に行いたいと思いました。

インタビューをさせていただいたことで、今私たちが活動しているプロジェクトへのモチベーションも上がり、ゴールデンスポーツイヤーズがより楽しみになり、貴重な機会をいただいたと感じました。ありがとうございました。

上智大学 外国語学部英語学科 2年 神野 帆夏

2016年リオ大会のフラッグハンドオーバーセレモニーで見た「See you in Tokyo」の文字が記憶に新しい。
2020年オリンピック・パラリンピックは東京にやってくる。その事実が私の心をわくわくさせる。
今回、その東京大会に向け選手強化や施設整備の仕事に一元的に取り組むスポーツ庁の鈴木大地長官に話を伺った。
私たちの大学では、オリンピックのみならず、パラリンピックにも焦点をあて活動しておりパラリンピックやパラスポーツの認知度の低さに関して、どのようにお考えか興味があったため質問した。
すると、鈴木長官は認知度が低いことは事実だけれど、パラスポーツが知られるようになっていると様々な競技視察をする中で感じられることもあるとおっしゃっていた。
その話を聞き2020年のパラリンピックが楽しみになり、私たちも活動の中で知ったパラスポーツの面白さを広めていきたいと思った。また長官は、様々な方と関わる中でスポーツ庁長官として、スポーツらしい明るく元気な印象を与えられるように心がけているとおっしゃっていた。
2020年の東京大会に私はボランティアとして関わりたいと考えている。その時に私も日本の代表として日本を好きになってもらえるような「First impression」を与えられたらと思った。
長官の話を伺いこれから自分自身も競技観戦、ボランティアなど様々な形で東京大会に関わりたいと思った。一生に1度とも言われる自国開催の大会を学生の時に経験できる私は幸せ者だ。

東京大学1年生 内野澤 安紀

鈴木長官は終始笑顔を絶やさず、一方で威厳のある人物だった。
2013年を思い出して欲しい。五輪招致が決まった、あの年を、あの日を。日本国民は湧いて喜んだ。私はその日起きてすぐテレビで知った。しかし今はどうだろうか。国民に以前の覇気は感じられない。五輪はすぐそこまで迫っているというのに。
決まったからには、前に進むしかない。五輪を目前にして立ち止まってはいけないのである。その舵取りを担うのは鈴木長官しかいない。


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