1929年に日本とカナダが修好を正式に樹立して今年は95周年。知っているようで知らないカナダ、地理的には遠くても身近に感じ、親しみを覚える国・カナダ。私たちは名古屋にあるカナダ領事館を訪ね、領事のデイヴィッド・パデューさんにお話を伺いました。
在名古屋カナダ領事館 領事
デイヴィッド・パデュー(David・Perdue)
カナダ オンタリオ州トロント出身。大学時代は東アジア研究を専攻し、交換留学生として早稲田大学で日本語を学ぶ。大学卒業後、経済産業省(METI)で交換研修生として1年間勤務、宮崎県国富町役場にて国際交流員として2年間勤務という経歴を持つ。カナダへ帰国後、大学院を経て外務省へ入省。2021年8月より在名古屋カナダ領事館の領事に着任、現在に至る。
Interviewer |
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都築 啓太 東海高等学校3年 |
堀内 海美 千種高等学校1年 |
藤田 心美 南山高等学校女子部2年 |
小林 布美 愛知県立旭丘高等学校2年 |
インタビューコーディネイト
立木 常雄 / 歌舞伎の学校 校長
Q.現在の日本とカナダの関係について教えてください。(東海高等学校3年/都築啓太)
A.日本とカナダは外交樹立して、今年で95周年になります。そのスライド※の古い写真は初代の在日カナダ大使の写真で、1929年7月1日のカナダデーに渋谷のカナダ公使館で撮られました。それ以来、日本とカナダはとても友好的な関係です。共有する価値観があり、世界的な分野でも強いパートナーシップを持っていますね。
領事館は貿易と国際投資を中心に仕事しています。TPPでも両国の貿易を支えるパートナーシップが発揮されていますが、その協力のテーマは、法の支配、安全保障協力及びエネルギー安全保障、健康、貿易促進、環境と気候変動という項目です。貿易の面では両国合計300億ドルほどで、カナダが日本に輸出するのは主に天然資源、日本がカナダに輸出するのは自動車、部品、機械などです。
今カナダが取り組んでいるのは2025年大阪・関西万博への出展です。より多くの日本人にカナダについて理解していただけるよう力を入れているのです。カナダパビリオンのコンセプトは「再生(Regeneration)」。カナダは非常に寒い国で、冬は氷と雪に閉ざされます。厳しい冬から春の訪れと共に凍っていた川の水が溶ける風景をイメージしています。パビリオン外観は、カナダで見られる自然現象「水路氷結」を表現していて、川面の氷が溶けて流れることで生まれる儚い氷の造形が魅力です。
※初代在日カナダ大使
Q.外交の仕事を行う中で、どのような時に楽しさや幸せを感じますか。(都築啓太)
A.違う国に住んで、その国の言語や文化など様々なことについて学ぶことがとても面白いと感じます。日本の方々と出会い、彼らの考え方を知ることができます。それは非常に有意義なこと。日本とカナダでは少し文化も考え方も違うので、お互いに理解し合うために学校や日本企業への訪問などいろんなイベントに参加します。私はそういうことに価値があると思うし、楽しいですね。
個人的には車で日本の各地を巡っています。私は車の運転が好きで、仕事でもプライベートでも自分で運転するのです。北海道や、西は岡山辺りまでドライブしました。冬にはスキーにも出掛けます。日本にいるのは非常に貴重な機会だと思いますので、できる限り日本の素晴らしいところを楽しむつもりです。
Q.私は将来カナダに留学したいと思っています。カナダは現在留学生の受け入れを制限しているようですが、今後もっと厳しくなるのでしょうか。(千種高等学校1年/堀内海美)
A.カナダは留学生に対して扉を閉めているわけではありません。2024年も48万人を受け入れる予定で、人数として決して少なくはないのです。では何故制限したかというと、留学生受け入れの持続性を考えたからです。留学生の急増で様々な問題が発生してしまいます。今カナダでは家賃が高騰、アパートの数も少なくなっています。住む場所が確保できないと学生はいい経験ができません。受け入れ制限は教育のクオリティーを保つための措置なのです。ただし、この制限は大学レベルに対してのことで、高校レベルや大学院レベル、あるいは短期間留学には適用しません。大学レベルへの制限も増え過ぎた状況が改善されるまで、一時的な政策です。カナダは基本的に留学生を歓迎していますよ。
Q.カナダにおいてSDGsで達成可能なものと厳しいものは何でしょうか。(堀内海美)
A.今日はSDGsの達成例を二つ紹介します。一つ目はジェンダーについて。カナダはジェンダー平等にはかなり力を入れています。例えばカナダの内閣で大臣は男女同数、外国駐在のカナダ大使も男女同数です。ジェンダー平等については、カナダが世界に誇れることだと思います。もう一つはカナダの医療制度。カナダの国籍や永住権があれば誰でも無料で医療を受けられます。こういう制度はあまり世界にはないでしょう。国民の健康におけるSDGsだと思いますね。
SDGsで大変なのは環境問題。カナダは日本と同じく、2050年までには事実上の二酸化炭素排出ゼロという目標を掲げています。2035年までに全ての自動車の排気ガスゼロという目標も。しかし目標達成にはいろんなハードルがあります。またカナダは石油や天然ガスなどの自然資源が多い国ですが、開発すれば経済にメリットがある一方、世界の環境にはデメリットを生じるというジレンマがあります。複雑な事情が絡み合って目標達成は難しい状況です。
Q.私は模擬国連という活動をしています。学生だけで色々な国を担当し、AI使用についてとかSDGsについてなど話し合うものです。その際、指定された国の代表として参加するのですが、一高校生としてはかなり難しいと感じます。デイヴィッドさんが領事として大事にしていることや国際問題に関わることで気を付けている行動とはどんなことでしょうか。(南山高等学校女子部2年/藤田心美)
A.国を代表するという立場なら、個人的な意見が色々あるとしても国としての意見を優先する必要があります。個人としてそこにいるわけではなく国の代表としているわけですから。その国の政策についてはしっかりと勉強して、その場で国の政策を表現しなければならないし交渉もしなければなりません。政策やポジションの違う国が議論するのですから、自国の意見を主張するだけでなく妥協と譲り合いも必要です。個ではなく公のスタンスを保つこと、柔軟な心を持つことが大切だと思っています。
Q.領事館の仕事をする上で最も大変だと感じることは何ですか。また、デイヴィッドさんご自身の仕事に対するモチベーションや、領事館で仕事をしようと思ったきっかけをお聞かせください。(愛知県立旭丘高等学校2年/小林布美)
A.私は名古屋の領事館で唯一のカナダ人です。同僚のカナダ人は皆、東京の大使館で働いているので時々寂しいなと感じることがあります。週末などに東京へ行って同僚と一緒に食事したりしますが、たまには食事でもミーティングでも、Face to Faceで交流できれば嬉しいですね。でも領事館にはカナダ人が来ることも時々あります。例えば日本在住のカナダ人が日本人と結婚する場合などいろんな書類が必要で、私はその書類にサインします。そのように、この地域に住んでいるカナダ人と直接出会うのは嬉しいことです。また今日のように日本の若者との交流も、とても好きです。こんな機会を通じて一人でも多くの方が将来カナダに行ってみたいとか留学したいと思ってもらえれば、とても嬉しいです。それ以外にも日本でビジネスをしたいカナダの会社をサポートすることがあります。日本で販売するためのノウハウだったり、日本の会社に紹介したりします。それも日本とカナダの貿易に直接繋がり、価値あることでしょう。今お話ししたことは全てモチベーションになっています。
私が領事館で働こうと思ったきっかけですが、実は私は大学時代、日本に留学しました。日本語を集中的に勉強して日本という国が本当に好きになり、大学を卒業したら再び日本に来たいと思いました。そして大学卒業後にJETプログラムという外国青年招致事業に参加。九州の宮崎県にある小さな町、国富町の役場で2年間働くことができました。国際交流員という立場で、内容は現地の日本人にカナダの文化を教えたり英語教室を開いたり、国際理解を深めるためのイベントを開催したり、たくさんの計画をしました。それはカナダと日本のかけはしとなる有意義な仕事で、将来もこのような仕事をやりたいと思いました。その頃初めて外交官になりたいと思ったのです。
JETプログラムを終え帰国、大学院に入って外交官になるための勉強をし、卒業後カナダの外務省に入りました。私はその時点でトータル3年間日本に住んでいたので、将来は外交官として日本に戻りたいと思っていました。外交官もまさしく両国のかけはしとなる仕事。全ては大学時代に始まっていると思いますね。今この地域で興味深く幅の広い仕事ができ、当時の夢が叶って私はとてもラッキーだと思います。
◎インタビューを終えて
まず印象的だったのはデイヴィッドさんがとてもフレンドリーで、丁寧にカナダのことを紹介してくださったこと。加えてとても流暢な日本語で話されることに驚きました。国際的な感覚を身に付け理解を深めるためには、まず語学を一生懸命学ぶこと、そしてコミュニケーションを重ね、お互いの文化を知ることが大切だとのアドバイスを胸に刻みました。
ライティング:宮崎ゆかり
撮影:ミゾグチジュン