2021年3月にオープン10周年を迎えたリニア・鉄道館。名古屋市が2007年に策定した「モノづくり文化交流拠点構想」に東海旅客鉄道株式会社(JR東海)が参画して誕生したミュージアムです。2019年には累計入館者500万人を達成しました。まず圧巻なのは、歴代の新幹線車両を中心に蒸気機関車や在来線の車両などを展示した車両展示エリアです。かつて走っていた実物が並ぶ眺めはまさに壮観です。また新幹線シミュレータ「N700」・在来線のシミュレータ「運転・車掌」や鉄道ジオラマ、鉄道の仕組みエリア、映像シアターなどを通じて、様々な角度から鉄道を楽しみ、学ぶことができます。超電導リニア展示室では超電導リニアの推進と浮上の原理がわかりやすく解説され、ミニシアターでは時速500kmの走行を模擬体験できます。鉄道ファンならずとも興味をそそられるミュージアムだといえるでしょう。2022年1月31日までは、国の重要文化財に指定された「ホジ6014号蒸気動車」をテーマにした企画展が開催されています。
また2021年10月「国鉄バス第1号車(鉄道省営乗合自動車)」も今後、国の重要文化財に指定されることになりました。
見学のあとのインタビューではJR東海の松木紳一郎さん、林翔太さんにお答えいただきました。
リニア・鉄道館のコンセプトについてお聞かせください。(名古屋大学教育学部附属高等学校1年/稲垣智華)
リニア・鉄道館のコンセプトは東海道新幹線を中心に在来線から超電導リニアまでの展示を通じて「高速鉄道技術の進歩」を紹介することです。歴史展示室では東海道新幹線がどのようにして生まれ、進歩していったかということをお伝えしています。また鉄道ができたことによって社会や情景がどう変化したのかといった、鉄道が社会に与えた影響を経済、文化及び生活等の切り口で学習する場を提供しています。鉄道だけではなく、街や人々の暮らしの変遷といった別の切り口でも学習していただきたいと思っています。そして模型やシミュレータを活用し、子どもから大人まで楽しく学ぶことができます。来館される方々は年代を問わず目を輝かせていらっしゃいます。
私は蒸気機関車や昔の木製車両の車内が素敵だと感じました。今の技術を駆使して機能的には現代的で、見た目はああいうレトロな車両を造ることはできませんか。(稲垣智華)
作ることは不可能ではないと思いますが、それを実際に導入して走行させることができるかは別の話だと思います。鉄道の技術は昔に比べかなり進歩しており、例えば新幹線の先頭形状の変化は速さにも関わりますが、空気抵抗が小さくなり省エネも実現しています。技術革新の積み重ねが新幹線の形状にも表されているのです。こういった面から昔の面影を感じさせる車両を導入するかどうかは、その用途によって変わってくると思います。例えば観光を目的としたエリアではお洒落で旅情をかき立てる列車が好評なので、そのようなところに導入することはあります。一方、東海地方では出張や通勤の方が主体、都市の間の輸送が中心となりますから、効率よく走らせねばなりません。積み上げてきた技術を駆使して安全性、速さや快適性等を重視しています。
リニア・鉄道館はどういう場所でしょうか。(愛知県立明和高等学校2年/大塚舞優)
鉄道技術を知っていただくという面はもちろんありますが、鉄道や車両がどういうものか、その存在感を体感していただく場所でもあります。歴代の車両を見て昔の記憶が呼び起され、その時代の想い出に浸ることができる場所であると思いますし、最新の技術を知っていただく場所でもあります。まさに「夢と想い出のミュージアム」なのです。また、貴重な車両を保存することも役割の一つです。国の重要文化財の車両も含め、歴史的に価値の高い車両を保存することは大変重要です。
私たちが高校で学ぶ数学や理科が、鉄道の技術にどう役立っているのか教えてください。(大塚舞優)
数学や理科が鉄道にどう生かされているかというと、まさに超電導リニアの仕組みの一部は、小学校で学ぶ磁石の性質や中学校で習う電磁誘導の仕組みが使われています。他には基本的な力学が挙げられ、それは高校物理で習います。また物理現象を解析するためには数式を解く必要があります。こうして中学や高校で習う数学や理科が基礎になっています。さらにその上に鉄道には実に多くの分野の技術が積み重なっています。具体的には電気、機械、土木構造物、建築物、デザイン等様々な専門知識と技術が集積しています。
鉄道館にバスの展示があるのは何故ですか。(名古屋大学教育学部附属高等学校1年/足立心愛)
あのバスは正式名称を「鉄道省営乗合自動車」というのですが、現在の愛知環状鉄道の岡崎と多治見間にあたる路線で鉄道建設予定線を検討した際に、先行して走らせた車両です。確かに鉄道車両ではありませんが、当時鉄道を管理する鉄道省が建設し、東海地域にゆかりのある大変価値のある車両なので当館で開館時から保存・展示しています。
バスが鉄道に替わったり、鉄道も時代の変遷が見られますが、特に近年のグローバル化による変化はありますか。(足立心愛)
グローバル化といえば、今、JR東海ではアメリカに新幹線の技術を輸出する計画があります。鉄道関連は日本では成熟した市場になっているため、新しい市場を必要としているのです。次世代への技術力の継承には需要のある市場が不可欠です。また、国内に目線を向けるとインバウンドの影響がかなり濃くなっています。今まで鉄道車両の英語のアナウンスは自動音声でしたが、いざという時にちゃんと英語で説明できるように車掌さんが自ら英語で話す取り組み等を行っています。
時代によって何故、新幹線の形が変化したのですか。(私立愛知高等学校2年/関はるか)
当初、新幹線が速く走るために参考にしたのは飛行機でした。なので0系新幹線電車の先頭は飛行機の先頭と似ています。ところが高速でトンネル内を走らせてみると、車両が入った時に空気が圧縮されて、出口でドーンと大きな音がする現象(トンネル微気圧波)が発生しました。そういったものを防ぐために鼻先を長くしました。その後コンピュータの技術が発達してシミュレーション等の解析技術が向上し、鼻先の長さ、形状などが改良されていきました。解析技術もさらに進歩すると同時に、今後も形状は徐々に変わっていくと思います。
毎日これらの車両を見ていて、どんなことを思わますか。(関はるか)
歴代の車両を見ていて思うことは、これらの車両たちは日常の中で当たり前に動いてきたということを考えます。鉄道にとって“安全”こそ一番大事なことで、それが信頼につながっています。普段、通勤等で電車に乗る時も何事もなく当たり前に動いているという事実が一番素晴らしいことだと日々かみしめています。
現存する唯一の蒸気動車に続き、2021年10月国鉄バス第1号車が重要文化財に指定される見込みとなったのは何故ですか。(名古屋市立名東高等学校1年/柳原文香)
鉄道省が造った乗合自動車というのがもうここに展示されている1台しかなく、とても貴重なのです。特徴的な点は国産だということです。当時は外国産の車両が主流でした。そこで自動車に対するノウハウがある程度生まれて、日本の自動車産業の発展へとつながっていったのです。交通の歴史や乗合自動車の歴史から見て価値が高いものだと評価され、重要文化財に今後指定されることになりました。
長い年月をかけて変化してきた鉄道は、これからどのような進化を遂げるか、加えて、鉄道は現在どのような機能、変化を求められていると思われますか。(柳原文香)
鉄道の進化という意味でいうと、リニアのように浮いて走る車両は別として新幹線N700Sは技術の集大成といえます。その上で進化となると私たちが大切にするのは、さらなる安全性の確保、それから速さと快適性ではないかと思います。安全性ではホームドア、快適性では駅エレベータの設置等、新しい視点も追求する必要がありますね。昨今、環境対策、リサイクル、エコロジカルな取り組みも必須です。誰もが使いやすく気持ちよい公共交通機関が求められていると思います。
インタビューを終えて
リニア・鉄道館に到着後、駅弁を頂き、館内をご案内いただきました。鉄道の知識はあまりない私たちでしたが、昔の車両が木製だったことやレトロな内装を見て感激したり、新幹線の進化する過程をつぶさに感じたり、リニアの構造に感動したりと、驚きの連続。日本の鉄道は衝突を避けるための開発がなされているのに対し、アメリカの鉄道は衝突しても壊れない車両を造ることに力を入れる、というお話も文化や諸事情の違いを知り興味を覚えました。インタビュー後の雑談で、JR東海に勤めてよかったかどうか、という質問に、自分たちが造ったり携わったものが後世に残ることの喜びや、人々の喜ぶ顔が見られることの嬉しさを松木さんも林さんも熱く語ってくださいました。仕事への誇りって素敵だなと思いました。
Interviewer
稲垣 智華 名古屋大学教育学部附属高等学校1年
大塚 舞優 愛知県立明和高等学校2年
足立 心愛 名古屋大学教育学部附属高等学校1年
関 はるか 私立愛知高等学校2年
柳原 文香 名古屋市立名東高等学校1年
INFORMATION
SCMAGLEV and Railway Park
リニア・鉄道館
名古屋市港区金城ふ頭3-2-2
TEL.052-389-6100(10:00~17:30休館日は除く)
https://museum.jr-central.co.jp
開館時間:10:00~17:30(最終入館は閉館30分前まで)
休館日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日)、12/28~1/1
※最新の開館カレンダーはホームページでご案内しています。
入館料:大人1000円、小中高生500円、幼児(3歳以上未就学児)200円
※20名以上の団体、障がい者手帳をお持ちの方は割引あり。
ライティング/宮崎ゆかり
フォト/ミゾグチジュン
デザインレイアウト/スタジオゴブリン