1962年、東京~大阪間1時間を目指し、次世代の超高速鉄道として「超電導磁気浮上式鉄道」の研究・開発がスタートしました。あれから56年。超電導リニアの走行試験を行っている「JR東海山梨リニア実験線」を取材しました。
まず、リニア中央新幹線計画の概要について紹介します。営業速度は時速500㎞で、2027年に品川~名古屋間(286㎞)を最速40分、その後は品川~大阪間(438㎞)を最速67分で結びます。現在、名古屋から豊橋まで在来線で約60分、岐阜までが約35分であることを考えると、その速さと私たちの暮らしに与える影響がよく分かります。
例えば、リニア中央新幹線が名古屋まで開業する2027年には、私たちは名古屋から東京の大学に毎日通学したり、学校が終わった後に東京で開催されるライブに日帰りで行けるようになるかもしれません。逆に、東京に住んでいる人たちがより気軽に名古屋を訪れてくれるようになり、名古屋城を始めとする観光地が大いに賑わうかもしれません。
最終的には、リニア中央新幹線の全線開業により、圧倒的な時間短縮効果が生まれ、東京・名古屋・大阪の3大都市圏が世界に類を見ない一つの巨大な都市圏となります。その結果、日本経済や社会全体がより活性化されることが期待されます。
今号では、主に超電導リニアの原理や歴史、体験乗車の感想などについてわかりやすくご紹介します。
(文責 土屋隆司)
今回取材でお世話になったJR東海 東京広報室の才木さんと現地の中央新幹線推進本部の滝沢さんに質問をするスキッフルスタッフ
時速500kmで走るには浮かせることが必要でした。
そこで考えられたのが磁石の力を使って浮かせるという方法です。
— 磁石の力で10 cm浮き、時速500kmで走る
★次世代の扉を開く輸送システム
超電導リニア。それは超電導を利用した世界に誇る日本独自の先端技術。従来の鉄道のように車輪とレールとの摩擦を利用して走行するのではなく、車両に搭載した超電導磁石と地上に取り付けられたコイルとの間の磁力によって非接触で走行します。そのため、従来の鉄道とは異なり時速500kmという超高速走行が安定して可能となります。
★超電導リニアの原理「超電導」とは?
ある種の金属・合金・酸化物を一定温度以下としたとき、電気抵抗がゼロになる現象を超電導現象といい、超電導状態となったコイル(超電導コイル)に一度電流を流すと半永久的に流れ続けます。
超電導リニアには、超電導材料としてニオブチタン合金を使用し、液体ヘリウムでマイナス269℃に冷却することにより超電導状態を作り出しています。
★リニアモーターとは?
リニアモーターとは、従来の鉄道車両のモーターを直線状に引きのばしたものです。このモーターの内側の回転子が車両に搭載される超電導磁石、外側の固定子が地上のガイドウェイ(軌道)に設置される推進コイルに相当します。
★どうやって走行するの?
超電導リニアは、車両に搭載した超電導磁石と地上のガイドウェイ(軌道)に設置されたコイルとの間の磁力によって、車両を10 cm程度浮上させ、超高速で走行します。
ガイドウェイの推進コイルに電流を流すことにより磁界(N極・S極)が発生し、車両の超電導磁石(N極・S極を交互に配置)との間で、引き合う力(吸引力)と反発する力(反発力)が発生します。これを利用して車両(超電導磁石)が前進します。
★浮上の原理
ガイドウェイの側壁両側に浮上・案内コイルが設置されており、車両の超電導磁石が高速で通過すると両側の浮上・案内コイルに電流が流れて電磁石となり、車両(超電導磁石)を押し上げる力(反発力)と引き上げる力(吸引力)が発生します。
— 道なき道に挑み続け、技術を磨き続けた歴史
1962‐1989
★超電導リニアの夜明け
1962年、東京~大阪間1時間を目指し、新幹線の次の超高速鉄道として超電導磁気浮上式鉄道の研究がスタートしました。その後、1989年には山梨リニア実験線が建設されることになりました。
1990‐1997
★山梨リニア実験線の誕生
山梨リニア実験線は富士山の北側に位置し、総延長は42.8kmです。
1990年11月、山梨リニア実験線の建設がスタート。1995年7月には試験車両MLX01が完成、山梨リニア実験線に搬入されました。その後も様々な設備工事などを行い、1997年3月、先行区間18.4kmが完成しました。
1997‐2000
★技術上のめど立て
1997年4月3日、低速度での車輪走行にて走行試験がスタート。5月には、浮上走行に成功し、安定した浮上走行ができることを確認しました。1999年11月には相対速度1,003km/hを記録しました。その他、駅での先行列車の退避、後続列車の追越、続行運転などを想定した複数列車による試験を実施し、スムーズな運行ができることを確認しました。
2000‐2005
★実用化基盤技術の確立
実用化の基盤技術の確立を目指し①信頼性・長期耐久性の検証、 ②コスト低減、 ③車両の空力的特性の改善を柱として技術開発及び走行試験を推進しました。信頼性・長期耐久性の検証やコスト低減の検討を進めるとともに、空力的特性や乗り心地などを多角的に把握・検証する目的で、先頭形状、車両断面、車両構造において多くの試験的要素を取り入れた試験車両(MLX01-901)を投入しました。2004年11月に、これまでの記録を上回るすれ違い相対速度1,026km/hを記録しました。
2006‐2012
★営業線に必要な技術の整備
超高速大量輸送システムとしての実用化技術を確立することを目指し、①更なる長期耐久性の検証、②メンテナンスを含めた更なるコスト低減のための技術開発、 ③営業線適用に向けた設備仕様の検討を柱に技術開発、走行試験を推進しました。
2013‐
★設備更新・延伸後の山梨リニア実験線
山梨リニア実験線では、設備の全面的な更新と42.8kmへの延伸工事を完了し、現在L0(エル・ゼロ)系車両による走行試験を行っています。2015年4月には、長距離走行試験を実施し、1日の走行距離が4,064kmに到達したほか、高速域走行試験により時速603kmを記録し、鉄道の世界最高速度を更新しました。この記録は鉄道の世界最高速度として、ギネス世界記録に認定されました。
★2017年2月の実用技術評価委員会の評価
2017年2月、国土交通省の超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会において、超電導磁気浮上式鉄道について「営業線に必要な技術開発は完了」との評価を受けました。
左から伊藤志織(愛知県立千種高等学校3年)、兼松亜優(名古屋大学附属高校3年)、大井川豪(立教新座高等学校3年)、林利遥(慶應義塾大学3年)
山梨リニア実験線で体験乗車をして…
■ 愛知県立千種高等学校 3年 伊藤 志織
リニアは思ったより静かで、特に車輪走行から切り替わる時が何度やっても感動を覚えました。速度や騒音を含め、体感的には飛行機に似ていたと思います。なかなかできない貴重な体験ができました。
中央新幹線が開業する頃には私も社会人の仲間入りをしています。まだ想像ができませんが、お話を伺っていると私たちの生活になくてはならないものになるのだろうと思いました。三大都市圏がここまで簡単に繋がるのは世界でも初めてだと聞き、改めて日本の技術に驚かされるとともにとても誇らしく感じました。
開業して様々なサービスや環境が整ったリニアに乗るのを楽しみにしています。
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■ 名古屋大学附属高校 3年 兼松 亜優
リニアを前から見ると、新幹線よりもハナが長いなあと感じました。運転手がいないからこんなシャープな形にできるんだなとわかりました。そしてリニアに乗車してみると、最初は車輪走行で1
50kmあたりから浮上走行に変わるのですがその瞬間がとてもわくわくしました。10 cmほど浮いて走るので、音は思ったよりも静かでしたが、耳はつーんとしました。
あっという間に最高速度の500km/hに達しました。ただずっとトンネルの中を走っているのでそこまで500km/hを感じませんでした。
リニアはもっと未来の乗り物だと思っていたけれど実際に乗ってみて、もうすぐ誰でも乗れるのだと実感しました。
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■ 立教新座高等学校 3年 大井川 豪
いつか乗ってみたいと思っていたリニアに乗車できて、まさに夢のようでした。500km/hを体感して最初に思ったことは、自分が考えていた以上に安定した乗り心地でした。ふわっと浮いた状態で走行する感覚は、新幹線というより飛行機の中にいるようでした。しかし、外から500km/hで走るリニアを見ると、こんなにも早いのかと驚きを隠せませんでした。また、実際に運転するときの安全の確保や災害時の対策にまでしっかり手が行き届いて、乗客は安心して目的地へ行くことができると思いました。
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■ 慶應義塾大学 3年 林 利遥
(名古屋大学附属高等学校卒 スキッフルスタッフOB)
今から13年前、「愛・地球博」で初めてリニアモーターカーを見たときのことを覚えていますが、今回実際に時速500キロを超えたときはそのスピード感に感動しました。しかし、それだけ速く走っていても、揺れは新幹線とあまり変わらないくらいで、今から営業運転を始めても全く問題ないように感じました。また、大都市を高速で結べることがリニアの魅力なのは確かですが、途中の県にもたくさんの魅力があります。リニア中央新幹線には、東京と名古屋の間で東海道新幹線とは離れたところに4つの駅ができる予定なので、これらの地域の魅力を掘り起こせると面白いのではと感じました。
最後に今回の取材にて、東京広報室の才木祐人様・中央新幹線推進本部の滝沢優介様には大変お世話になりました。厚くお礼申し上げます。
山梨県立リニア見学センター
http://www.linear-museum.pref.yamanashi.jp