開港20周年を迎えた 中部国際空港セントレア

Suki-Full Special Feature

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名古屋駅から名鉄電車で約30分、知多半島常滑沖の中部国際空港セントレアに到着です。今年開港20周年を迎えたセントレア、第1ターミナルと直結するアクセスプラザには多くの人々が行き交い、旅へのワクワク感が溢れ、私たちも旅に出たくなりました。
今回は私たちの愛するセントレアについて、成り立ちや課題などいろんなお話を伺います。スカイデッキの眺めやスカイタウンでのランチ、ボーイング787の初号機が展示されているフライト・オブ・ドリームズの見学も楽しみです。


お答えくださったのは
渡辺 吉章さん
中部国際空港株式会社 地域共生部 部長


Interviewer

戸田 和聞 名古屋大学教育学部1年
森 朱理 千種高等学校1年
原 菜々世 名古屋大学教育学部1年
西田 朱里 千種高等学校1年
堀内 海美 千種高等学校1年
姜 智仁 名古屋大学教育学部附属高等学校2年

※取材時の学年です。

インタビューコーディネイト
立木 常雄 / 歌舞伎の学校 校長


Q.今年で20歳のセントレアは、今後どのような成長をすると思われますか。(名古屋大学教育学部1年/戸田和聞)

A.現在は国際線ネットワークの少なさが指摘されているのですが、今目指しているのはまさにそこなのです。国際拠点空港であるが所以を高めなくてはなりません。20年前の開港時、地域に熱望されて生まれた国際空港ですから、原点の思いを新たにしています。当時国際空港は成田と関空、そこへセントレアが加わり海外へ向けて飛べるのは3空港となりました。しかし空の自由化によって羽田ほか各空港からも海外へ行けるようになり、競争が激化したのです。セントレアは現在1000万人クラスの空港ですが、2030年には2000万人クラスの空港にしたいと考えています。使い勝手の良さや魅力を高めて、気軽に利用でき空港滞在時の楽しみも充実した空港にしたいと思います。まずはネットワークを拡充することが最も大切な要素だと思っています。


Q.空港の成り立ちと、航空業界が直面している課題を教えてください。(千種高等学校1年/森朱理)

A.50年ほど前になりますが、その頃空港構想が持ち上がりました。今のように民間の飛行機が当たり前に飛ぶ時代ではありません。日本でもビジネスや観光で世界に目が向けられ始めた頃でした。

中部地域には名古屋空港がありましたが、街中に立地していることから容量を増やすことは不可能で、ほかの場所に大きな空港を造ろうとしたのです。中部は自動車産業や航空宇宙産業が盛んなモノづくりの集積地なので、当時は貨物の拠点空港にしようという発想でした。その後、地元の自治体や経済界が建設推進団体を作り、新空港建設に向けて合意形成していきますが、その頃には成田に加え関空もできていました。東京、大阪となると、やはり次は名古屋にも国際空港が必要だという気運が高まる中、2005年に愛知県での万博開催が決まったのと同時に一気に新空港プロジェクトが進みました。愛・地球博がセントレアの開港を牽引したとも言えるでしょう。

セントレアは、国策で公共事業として行われた成田や関空と異なり民間主導の事業でした。その結果、総事業費7680億円の予算のところ実際には約6400億円で造り上げ、大幅な費用抑制を実現、世間の賞賛を浴びました。また工期も短縮でき、万博開幕より1ケ月ほど前に開港できたのです。セントレアは開港時ユニバーサルデザインを導入、あらゆる人が使いやすく快適で開かれたパブリックスペースを、という概念のもとに設計されました。またターミナルにエンターテインメント性を持たせ商業エリアやスカイデッキなど飛行機を利用しない人も楽しめる空港にしました。今ではどの空港でも取り入れていますが、当時としては初めての取り組みでセントレアが先駆けだったのです。セントレアは航空営業部門、商業部門、管理部門など仕事が分かれており、空港運営の自由度が高いビジネスモデルになっています。

航空業界の課題は、空の自由化で空港間の激化した競争に勝ち抜くこと。空港はそれぞれの課題解決に翻弄されていますが、セントレアの場合、国際線ネットワークが増えていかないことが課題の一つです。またコロナ禍に加えて円安の影響もあり、国際線利用客の大半は外国人。日本人の動きが鈍化してしまったのです。外国人を誘導するには魅力ある地域にならなければなりません。そのような中、私たちがやろうとしているのは、中部地域の魅力をどんどん上げていくということです。もう一つの課題としては脱炭素の問題。航空業界で最も炭素を排出するのは飛行機です。環境負荷を軽減するには燃料の改革が必要なのです。今、SAF(サスティナブル アビエーション フューエル)という燃料が生まれていますので、セントレアは知多地域を始めとした自治体と連携して、SAFを供給できる空港になることを目指しています。

Q.これまでに音楽祭の開催や商業施設・集客施設としての発展、フライトパークといった地域連携の事業があったようですが、私たち高校生や大学生をターゲットにしたアプローチの計画はありますか。また20周年を契機に変えていく点はあるのでしょうか。(名古屋大学教育学部1年/原菜々世)

A.元々セントレアは商業施設などの利益で着陸料を安くし、ネットワークを増やすというビジネスモデルを開港時に構築しました。イベントスペースを作ったりイベントを開催したりするのもセントレアならではのことでした。要はエアポートからエアシティへ‥そういう概念がありました。空港そのものを目的地にして空港で楽しむという概念です。

若者に対するアプローチについてお話しましょう。今日お越しの皆さんは全員パスポートをお持ちのようですが、実は地域全体あるいは国内全てを見てもパスポートを持っている人はとても少ないのです。そこで20周年記念の2月17日から始めたのが20歳以下の方を対象にしたパスポート取得応援キャンペーン。若い人たちに世界を見てほしいと思うのです。海外に行くことで得るものは多く、文化や価値観の違いを発見し、逆に日本を外から見ることができるなど新しい視点が生まれるでしょう。視野を広げてほしいと思っています。セントレアのホームページでは観光庁などにリンクして海外情報を発信しています。

20周年を契機に変えていきたいのは、AIの活用などにより省人化する時代の変化に対応すること。とはいえ全てが自動化されるのは如何がなものかとも‥。空港スタッフとのやりとりを通じて旅へのワクワク感が高まるなど、人と人のコミュニケーションも大切ですよね。デジタルとアナログのバランスが大切かなと思います。


Q.持続可能な空港運営のため、脱炭素のほかにこれまでどのような環境対策を行なってきたのか、また今後の目標などはありますか。(千種高等学校1年/西田朱里)

A.セントレアではいろんな部門があり、地域共生部を中心に環境問題に取り組んでいます。例を挙げると、まず騒音問題です。セントレアが海上に造られたのは環境対策区域を作らないためでもあったのです。しかし今度は海を汚染することにならないか、また生態系を壊すことにならないかが課題でした。セントレアの島の形は、陸側が丸みを帯びた形になっています。これは海流を妨げないよう考慮したもの。常滑の海には木曽三川が流れ込んでおり、その流れを滑らかにしたのです。また漁場としての配慮から岸付近に藻場を造り魚を寄せるよう工夫しました。開港当初から環境アセスメントに基づいて騒音、大気、水質など検査、今でも騒音についてはモニタリングしています。環境対策としてほかに挙げられるのはサーキュラーエコノミー。要は廃棄を最小限にするシステム作りのことです。例えば貨物の荷物を包む大きな包装素材を有効活用してターミナルのゴミ袋にするという取り組みを始めました。今後もいろんなことに積極的に取り組んで、環境先進空港みたいな姿になることを目指しています。


Q.開港から20年経った今、地域とどのような関わりがありますか。またセントレアの広報活動として心掛けていることはありますか。(千種高等学校1年/堀内海美)

A.セントレアは民間企業が運営している一方、公共インフラでもあり公共性が高いものです。幸いセントレアの存在意義や日々の取り組みについて、地元メディアの方々はよく理解してくださっていて、記事やニュースとして日々取り上げてくださいます。これは地元の皆様に常にセントレアへの関心を持っていただいていることが大前提となります。そのためにもメディアの皆さんにセントレアの「今」をしっかりと理解してもらうことが必要であり、記者クラブなどを介したメディアとの信頼関係が大切です。広報として心掛けているのは、嘘は絶対につかず、誠実に、丁寧にわかりやすくということです。広報とは別視点で、WEBやSNSを駆使しセントレアとしての想いが伝わるような、ダイレクトな発信もしています。

コロナ禍では地域をはじめ国や自治体、企業に随分助けていただきました。やはりこれからもその恩に応えられる空港にならねば、と思っています。知多半島5市5町や海部地域と協議会を作り、その事業として子どもたちの授業や空港見学などをしています。さらに経済界、中部経済連合会、名古屋商工会議所とも定期的に会合を行なっています。普段から密にコミュニケーションをとり、空港を核に地域の成長、地域の飛躍に貢献したいと思っているのです。

Q.訪れるたびに新たな発見があり、楽しみが尽きません。特に最近フライト以外でもセントレアを遊び尽くすという企画があるようですが、セントレアを魅力的にするために、どのようなこだわりがありますか。(名古屋大学教育学部附属高等学校2年/姜智仁)

A.魅力的な施設であるためにセントレアらしさを重視してきましたね。唯一無二の存在として開港時から大切にしていたのは顧客満足度の向上です。顧客サービスに関する国際空港評価で、Reagional Airport部門世界1位を10年以上連続で受賞しています。空港職員や商業施設などの事業者、エアラインやカーゴの方々など、セントレアに関わる全ての者の心得としてそのマインドを共有しています。美しく清潔で、気持ちよく丁寧な対応‥その積み重ねなのです。空港での様々な事例や苦情・ご意見も全員で共有し、改善の方向を模索します。訪れる人、働く人、全てが気持ちいいと感じる施設にしていきたいですね。


Q.今後、より良い空港を目指すにあたって、地元の愛知県民、その他の日本国民、他国の人々それぞれに期待することは何ですか。(名古屋大学教育学部1年/原菜々世)

A.やはりセントレアを積極的に使っていただくことです。ある統計によると、関東圏の人が羽田や成田を使うのは9割以上だと言いますし、関西圏の人が関空を使うのは8割以上だそうです。東海3県の人がセントレアを使うのは、コロナ禍前の時点でも7割くらいなのですよ。その少ない原因は、やはり路線が充分ではないからでしょう。特にヨーロッパにおいては直行便が少ないのです。中部圏の人は車利用が多く高速道路網も充実しています。また新幹線も便利なので、たとえば羽田にアクセスする品川まで名古屋から1時間半‥そんなことも一因だと思います。いかに利用者を増やすかと考えると、海外の方の利用が多い中、中部圏が魅力的な地であることが必要です。地域の知られざる魅力や郷土文化、食文化を再発見してアピールすることも大切です。昨今は定番ではない観光もSNSを通じて注目されたりしています。加えて空港そのものを楽しめる場所になるよう、さらに改革が大切でしょう。2018年には複合商業施設「フライト・オブ・ドリームズ」を開業しましたが、そういった商業施設を充実させることやイベントを実施し、多面的な魅力を蓄積していこうと思っています。


Q.環境対策で地域の団体やボランティアとの協力はありますか。また今後どのような連携をお考えなのでしょうか。(千種高等学校1年/西田朱里)

A.少し前からSDGsのことが社会課題として話題になっていますね。それはセントレアでも取り組むべきことだと考え、サステナビリティ推進室という部署を開設して取り組んでいます。例えば「海づくり・山づくり」があります。これはセントレアが立地するのは海上ですから、その責任として取り組んでいます。豊かな海があるのは豊かな山があるから、という考えに基づき、手始めに木曽川上流に植林をしました。次いで揖斐川、長良川の順に活動を広げ、木曽三川すべての上流に植林をしてきました。地元の中学生や高校生も一緒に活動してくれました。今後も続けていこうと思っています。秋には常滑の鬼崎漁港で清掃活動をしています。セントレア関係者やその家族も参加して、清掃の後に地曳き網をしたり魚市場みたいなことをしたり‥。地域・団体の皆様と楽しみながら一体となって活動をしています。


Q.現在私はボランティア団体「どえりゃあWings」の代表として活動しており、どうすれば多くの人にこの活動を知ってもらえるか日々考えています。何かアドバイスをいただけると嬉しいです。「どえりゃあWings」は中高生の国際ボランティア団体で、名古屋を中心に活動しています。現在はベトナムの教育支援やネパールとの文化交流、フェアトレードの商品を販売しています。そのほか子ども食堂や子育て支援センターでのお手伝いもしています。(千種高等学校1年/堀内海美)

A.どこかで取り上げてもらったりすると一気に広がるでしょうね。中高生の人たちが志を持って活動していることを、何かを通じて情報発信するとか。地域の協力が要になるかもしれません。連携する相手のチャンネルを使って配信したり、ステークホルダーの方に発信してもらうという方法もあるのじゃないかと思います。愛知県でもベトナムと協定を結んだりしていますから、その関係者にアプローチしてみるとか、身近なところではSNSの活用もいいかもしれませんね。


Q.先ほど直面する課題のことで、脱炭素の話題がありましたが、SAFについて教えてください。(千種高等学校1年/森朱理)

A.脱炭素の要は飛行機燃料の改革だと言いましたが、その中で新燃料SAFに触れましたね。SAFというのはSustainable Avietion Fuel。持続可能な航空燃料です。廃棄油、天ぷら油など使用済みの油を航空燃料として作り変えるのです。エネオス、コスモ、出光の3社がその事業に乗り出し、この4月からコスモが第1号で供給を開始するようです。テレビCMでもご覧になっていると思います。

セントレアでは一つの施策として、知多半島、海部地域の自治体に依頼して廃食用油の回収を行なっています。回収したものをコスモに送り、製造したSAFをセントレアに供給してもらう仕組みです。ヨーロッパではSAFが進んでいるのですが、日本はまだ出遅れています。ようやくここ2〜3年で国として動き始めていますね。これからの日本の課題として、国内でSAFを製造、国内で使うという循環を推進しなくてはなりません。


中部国際空港 セントレア
愛知県常滑市セントレア1丁目1番地
https://www.centrair.jp


◎インタビューを終えて

森 朱理(千種高等学校1年)
今回の取材では、空港の成り立ちや空港と地域との関わりや環境対策について詳しく伺うことができました。空港は単に飛行機に乗る場所ではなく、安全管理やサービス向上のために多くの人が支えていることを知り、とても驚きました。特に、SDGs達成のためにさまざまな工夫がされている点が印象的でした。騒音対策では、運航ルートの工夫などの努力がされていました。このようにして、空港が地域社会と共存するための工夫をしていることもよく分かりました。普段何気なく利用している空港の裏側を知ることができ、とても貴重な経験になりました。

西田 朱里(千種高等学校1年)
中部国際空港の20周年記念に際しインタビューをさせていただき、貴重なお話を伺うことができました。特に、海に対する環境アセスメントや、木曽三川の上流での植林活動についてのお話が印象的でした。空港の運営が自然環境や地域との関わりの中で成り立っていることを知り、今後の学びにもつなげたいと感じました。

堀内 海美(千種高等学校1年)
中部国際空港へインタビューをしました。地域の人との関わり方、そして広報活動について気をつけるべき点や心掛けている点などをインタビューできました。繋がりを大切に、嘘はつかず素直に行動するという2つのことを私は学びました。この学びを今後のどえりゃあWingsの活動や社会に出た時にも活用していきたいです。また、質問した際にお相手は楽しそうに、私たちの質問に興味津々に応えてくださりとても和やかな雰囲気でした。このような貴重なお話を伺える機会をつくってくださった皆さまにとても感謝しています。

姜 智仁(名古屋大学教育学部附属高等学校2年)
根本にあるのは何事にも真摯に向き合う姿勢だ、と強調されていたのが印象に残っています。寄せられた声一つにしても全体で共有し、改善に務める。見送り一つも丁寧に行う。当初から貫いてきたその姿勢こそが信頼され、長年愛されるセントレアを作り上げたのだなと学びました。それと同時に、日々の細やかな心遣いが巡り巡って自分の助けになる、という理想的な流れが実現されていることに衝撃を受けました。これをきっかけに新しいものの見方ができるようになったと感じます。

セントレアがなぜあのように魅力的なのか、納得しました。そして背景や、環境への積極的な取り組みなど知らない一面に触れたことで、セントレアがもっと好きになりました。セントレアの維持、発展のためには地域社会との関わりが欠かせないとの事で、私も地域社会の一員としてより積極にセントレアを利用したいと思いました。

原 菜々世(名古屋大学教育学部1年)
今回特に印象に残ったことは、「通過点」ではなく「目的地」としての空港を目指すにあたって、日本国内からはもちろん、他国からも選ばれる空港であり続けたいという強い思いです。そして、その戦略は興味深いものばかりでした。例えば、空港周辺地域から使用済み油を回収し航空機燃料の原料として再利用する取り組みを行っているそうです。このように、外部との連携を密に取ると同時に地域の魅力発信にも貢献するという熱意が、セントレアを唯一無二の存在にしているのではないかと思いました。


ライティング:宮崎ゆかり
撮影:ミゾグチジュン

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